世界へ通用するジャパンウェルネス(Jウェルネス)とは

世界へ通用するジャパンウェルネス(Jウェルネス)とは

国立大学法人琉球大学国際地域創造学部
ウェルネス研究分野 教授
荒川 雅志

多様化する顧客ニーズに、高い満足度の、高付加価値型の観光を実現していくことがWithコロナ時代を経て到達すべき観光ステージです。新型コロナ流行以前から、そしてコロナによって加速するであろう量の時代から「質」または「個」に転換していく時代の対応に健康の価値は高まり、ヘルスツーリズム、ウェルネスツーリズムの推進は理に適っています。
従来のウェルネス定義に帰せず、新しい時代のウェルネスとは何か、現代のウェルネスツーリズムとは何かを再考することが重要であり、そのなかで日本の独自性を議論し、他の国々には真似のできないものを提供する必要があるでしょう。日本が世界に対して優位に提供しうる価値とは一体何でしょうか。

人々を惹きつける観光地の4条件には、「気候」、「自然」、「食」、「文化」があるといわれます。我が国は温帯で穏やかな気候に恵まれ、四季折々の美しい自然と情緒に溢れ、四方を海で囲まれた豊かな海洋資源と島嶼の多様性を有し、源泉数28,000を超える世界有数の温泉大国であり、世界無形文化遺産に登録された和食文化、発酵文化、地域固有の食材、世代を超えて受け継がれてきた風土、たたずまい、様式美、伝統芸能、「禅」「道」を究める精神性といった優れた観光地の潜在的条件を見事に備えています。こうしたポテンシャルを再認識すること、日本的な「感性」や「美意識」の追求、「徹底した和の追求」こそが、日本のウェルネスを構成していくうえで重要と考えられます。

人類が希求するテーマとは、いつまでも健やかであること、その先にある「長寿」でありましょう。世界保健機関(WHO)が発表した最新の統計2016年度版によると、日本人の平均寿命は83.7歳で、統計を遡ることができる20年以上前から長寿世界一の座を守り続けています。この長寿世界一の統計的事実と、自然、社会環境因子、食文化、精神文化、日本的ライフスタイルとを紐づけることで、上質のウェルネスコンテンツを生み出すことが可能です。日本の長寿とは、まちがいなく世界に誇るブランドとなり得ます。世界のウェルネス市場において優位な競争力を発揮できるのは、この長寿世界一という事実を大いに活かした“ジャパンブランドウェルネス”を確立することが期待されます。

2020年9月に開催されたスパ&ウェルネスジャパン「Jウエルネスシンポジウム」企画では、「世界5大長寿地域ブルーゾーンのウェルネスに学ぶ」を紹介するなかで長寿世界一という最高価値に日本的要素を紐付けていくことが提案されました。前年2019年に開催されたスパ&ウェルネスジャパンシンポジウムでは「Jウエルネス」(日本のウェルネス)を議論する2つの会議のなかで、登壇者ら注*の意見は一致して日本のウェルネスが目指し発信すべきは『長寿』だと提案されました。
主催者江渕氏らを中心に、最先端AI等の「テクノロジー」との融合、個別化の特別なウェルネス「パーソナライズ」が、しっかりとエビデンスを備えた「高品質」で提供されていくこと、それらは日本流であること、四季、自然、多様な地形、街並み、暮らす人々、そして相手の気持ちを察するおもてなしや心遣いでパーソナライズするウェルネスの空間や時間というものが、世界が期待する日本の姿ではないだろうかと提唱しています。

2020年は新型コロナで世界が激動した1年となりましたが、来たる旅行ニーズの復活、また、東京オリンピック・パラリンピックというスポーツと平和の祭典で日本への着目を契機に、日本的ウェルネスを大きく発信するチャンスが必ずやってきます。豊かな自然、和の伝統や文化といった日本的精神的価値と、最先端技術という機能的価値を併せ持つJウェルネス(日本のウェルネス)には大きな可能性と期待が寄せられています。

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注*)UBMジャパン江渕敦氏コーディネートによるJウェルネス発信者一覧

⓵「第11回スパ・シンポジウム「今年を『J‐ウエルネス』発信の年に」

「基調講演2~新・湯治への取り組み」
環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室長 山本麻衣
「アマンが考えるウエルネス、日本が目指すウエルネス」
アマングループスパディレクター 清野 志
特定非営利法人日本スパ振興協会理事長 岡田友悟
UBMジャパン株式会社ダイエット&ビューティ編集長事業部長 江渕 敦(コーディネーター)

②「ウエルネスビジネスミーティング『日本が求められるウエルネスとは何か』(第8回スパプロフェッショナル100人会議)」
温泉ビューティ研究家 石井宏子
ヴィセラ・ジャパン株式会社代表取締役 武藤興子
株式会社ピー.ディー.エス.アーキテクツ一級建築士事務所代表取締役 濵田幸康
琉球大学大学院観光科学研究科研究科長/教授 荒川雅志
UBMジャパン株式会社ダイエット&ビューティ編集長事業部長 江渕 敦(コーディネーター)

◆ウェルネス参考文献:
1)荒川雅志. ウェルネスをコンテンツに誘客を~世界へ通用するJAPANブランドウェルネスとは~, HOTERES, 第54巻18号, 52-53, 2019
2)荒川雅志. ウェルネス、ウェルネスツーリズムと沖縄. 南方資源利用技術研究会誌34(1), 1-6, 2019
3)荒川雅志. ウェルネスとは何か?~健康を基盤に豊かな人生、輝く人生を送る次世代生活創造層が市場拡大をけん引. ダイヤモンド・ドラッグストア Vol.12 52-53, 2018
4)荒川雅志, 日本スパ振興協会編著. ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~, フレグランスジャーナル社, 2017
5)荒川雅志. 新しいツーリズムが日本の国を美しく、健康にする~美と健康の観光立国へ、新たなツーリズムの確立~, creabeaux No.89: vol.23/No.1 2017