SPA/スパマネジメント論

SPA スパとは

国際スパ協会(ISPA)によると、スパ(SPA)とは「心、身体、魂の再生を促進するための様々なプロフェッショナルサービスを通じてトータルな心身の調和に専念する施設」(Spas are entities devoted to enhancing overall wellbeing through a variety of professional services that encourage the renewal of mind, body and spirit.)と定義されています。

日本ではNPO日本スパ振興協会(NSPA)が「美と健康の維持・回復・増進を目的として、温浴・水浴をベースに、くつろぎと癒しの環境と様々な施術や療法などを総合的に提供する施設」と定義しています。

具体要素には①ホスピタリティ・マインドに基づく接客サービス、②浴槽を有し水を利用したプログラムの実施、専用のスペースでの施術・プログラムの実施、③施術に関する専門の教育を受けたスタッフが常駐することが基本条件に挙げられています(NPO日本スパ振興協会)。

こうした施設やサービスが提供される場への日常生活圏を離れた移動行動がスパツーリズムであり、スパの分類によれば「滞在型スパ」に該当します。とりわけ「ディティネーションスパ」という、トータルに健康な状態を目指すためにリゾートや保養地に滞在する目的志向型のスパが、ウェルネスツーリズムをよく表しているものと考えられます(図1)。

スパ(SPA)の分類
図1.スパの分類

スパマネジメント論~日本初、大学におけるスパに関する実践講義~

国立大学で日本初の観光系学科は2005年に琉球大学に新設されました。この観光学科のなかに健康医科学を専門とする研究者を配置し、専門科目「ヘルスツーリズム論」、「ウェルネスツーリズム論」を日本の大学で初めて開講、長寿研究、海洋療法研究、ウェルネス、ウェルネスツーリズム研究をはじめウェルネス産業分野の産官学連携プロジェクトを多数実施するなど、日本およびアジアのウェルネス&ツーリズム研究の拠点を形成しています(2018年4月より「国際地域創造学部観光地域デザインプログラム」に改称)。

2013年には、スパ(SPA)に関する大学で初の正規授業、専門科目「スパマネジメント論」が開講されました。海外にはスパに関する専門科目を提供する大学はありますが、日本にはこれまで存在していませんでした。専任教員による観光学、経営学、健康科学の研究成果を背景とした理論的裏付けと、スパ業界、ホテル業界等の第一線で活躍する実務家を講師陣に揃え、理論と実践の融合を図る講義を開始しました。

現場で働く方々が、ウェルネスツーリズムの中核となるスパを体系的に学ぶための学び直しの機会ともなるよう、社会人が受講しやすい週末にかけての集中講義(3日間)としたことで、全国各地、海外からも受講者が集っています。

琉球大学「スパマネジメント論」 
図2.琉球大学「スパマネジメント論」

ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~
荒川 雅志 著 NPO日本スパ振興協会 編著 フレグランスジャーナル社(2017)より


世界のスパ、ホテルの最新の動向を学べる、日本の大学で唯一の講義を支えるのは業界第一線で活躍する実務家の講師陣であり、その分野は実に多彩です。講義には全11の専門テーマが提供されています(表1)。
スパの基礎知識の講義に始まり、経営管理論、リスクマネジメント論、タラソテラピーの実際、スパのエビデンスと続き、スパのメニューとしてヨガ、メディテーション(瞑想)の実習も設けています。世界のスパ市場動向の最新、マーケティング、ファイナンス計画、事業戦略を学び、メディアにみるこれからのスパの可能性を知ることができます。建築の視点からスパ施設やホテルのデザイン、空間設計を学ぶ講義もあります。

2015年度は特別招聘講師、2016年度には正式に非常勤講師に就任した森トラスト株式会社・伊達美和子代表取締役による「ホテルデベロップメント事業とスパについて~開発に関しての付加価とは」の講義では、実際に同社が手掛けるホテル事業を事例とすることで学生、社会人に大いに刺激になるのみならず業界、関係者間でも注目を集めました。

琉球大学 正規授業・公開授業「スパマネジメント論」

琉球大学 正規授業・公開授業『スパマネジメント論』

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ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~
荒川 雅志 著 NPO日本スパ振興協会 編著 フレグランスジャーナル社(2017)より


グループワーク~理想のスパを考える~

加速するグローバル社会に通用する人材育成の観点から、多様な視点の醸成と共有が必須であります。学部の枠を越えた学生に加え、アジアからの留学生も受講する本講義に、さらに社会人が交ってのグループワークが行われ、作品発表の場があるのも大きな特色です。社会人受講生の肩書きは様々で、経営者、セラピスト、マネージャー、観光業、行政、金融関係など多様な職種がこれまで全国から参加しています。このグループワークを講義終盤におこなうことで、座学で得た知識を総動員し、学生ならではの斬新な発想力と、社会人の実務経験に基づいた事業計画が融合した成果発表が毎年生み出されています。

グループワークセッション課題は『理想のスパを考える』。
最終日に全グループにプレゼンテーション発表してもらい順位を競います。
課題に取り組む前に、以下6つの構成要素を盛り込むこと、8つの評価軸で評価することが伝えられます。

■6つの構成要素(必須)■8つの評価軸
  • コンセプト
  • SWOT分析
    (S強み・W弱み・O機会・T脅威)
  • ターゲット
  • ロケーション
  • サービス/プログラム内容
  • 収支計画
  • コンセプト
  • 具体性
  • 実現可能性
  • 説得力
  • 魅力
  • 独創性
  • 構成力
  • 表現力

わずか3日間のなかで上記の構成要素を盛り込んだ課題作成、プレゼンに臨まなければなりませんが、限られた時間の中で効率的に背景情報、必要情報を収集・整理する能力、多様な意見を尊重しつつ、光るものを汲み上げまとめあげる能力が養われます。独創性や魅力の要素を大事にしながら、実現可能性、事業収支計画が伴っていることが大きなポイントです。
以下に過去の優秀作品の一部を紹介します。

ゲイパラダイスSPAリゾート構想(2015年度グループワーク優秀作品)

  • 社会的マイノリティLGBT(L:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシュアル、T:トランスジェンダーの各語の頭文字)をターゲット
  • UNWTO Global report on LGBT tourismより世界市場規模を示し、可処分所得が高い対象、今後有望なマーケットであることを解説
  • SWOT分析をもとに、LGBT者が好奇に晒されず自由に過ごせるロケーションとして沖縄(島)のさらに離島を設定。
  • 独創性あふれるスパメニューの考案、ネーミング。
  • スパツーリズムは「入り口」。訪れたい場所から住みたい場所へ~終いの住処まで想定した出会い、雇用、病院、介護施設インフラ、サービスをトータルに提供
  • 収支計画は投資型コンドミニアム販売をベースに

天使が授かる子宝スパ(2016年度グループワーク優秀作品)

  • 子どもを持ちたいと考えている夫婦、20〜40代女性をターゲット
  • 国立社会保障・人口問題研究所の調査から、日本で6組に1組のカップルが不妊の検査や治療の経験がある、社会的課題の解決に資する提案
  • SWOT分析をもとに、子だくさんのイメージ、琉球精神文化の聖地でパワースポットの多い沖縄県南城市を設定
  • 沖縄固有の地域資源を子宝に紐つけて活かした滞在プログラム
  • 琉球古民家をスパ施設および宿泊施設として利用
  • 宿泊稼働率設定は85%と高めだが2棟の運営で堅実に、自然、精神文化、食材、独創性ある滞在メニューが充実したディスティネーションスパ
グループワーク~理想のスパを考える~

学の果たす役割、産官学連携寄附講義

このスパマネジメント論講座は、毎年東京ビックサイトで行われる日本最大の美と健康に関する展示会「ダイエット&ビューティフェア/スパ&ウェルネスジャパン」において、その年のトップスパを決めるスパ業界の最高位「スパクリスタルアワード2015・イノベーション部門賞」を大学講義として初受賞しました。
この受賞には、スパ・ウェルネス業界から学の果たす役割への期待が込められていると感じます。

日本初となる本講義の成立の背景には、琉球大学のみならず全国の観光系大学を中心にスパ人材育成、普及啓発の輪を拡げ、スパ産業の高度化、健全な発展に高等教育機関の使命を果たしていく起点になれればとの想いがありました。この講義が琉球大学で誕生した背景のひとつには、沖縄はスパ産業、ウェルネス産業振興への取り組みが活発であり、沖縄県ではウェルネスツーリズム推進事業による開発費支援、県独自のスパ施設認証、人材認証制度を日本初で立ち上げるなど、行政面からもスパを地域振興の柱ととらえた取り組みがされてきました。

大学がどう社会に地域に貢献していくかの在り方が検討されるなか、これからの人材育成とは、大学教員、キャンパス内の資源だけでは生きた学びを提供することは到底できません。第一線で活躍する実務家を講師で登壇いただき、国内外市場動向の最新、企業経営戦略のリアルな成功例失敗例を事例として提供すること、学びの場を学外に、ヒト・モノ・カネが実際に動くフィールドに求め、共感、感動を伴う体験型・参加型の学びを提供することがあらゆる分野で求められていると感じます。琉球大学ウェルネス研究分野では、担当する全ての科目を「寄附講義」として、企業と、地域と、共同でカリキュラムを開発する実践講義を展開してきています。

ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~
荒川 雅志 著
NPO日本スパ振興協会 編著 フレグランスジャーナル社(2017)より抜粋

荒川 雅志 Masashi ARAKAWA
国立大学法人琉球大学
国際地域創造学部ウェルネス研究分野
ブルーゾーン沖縄研究センター
教授 医学博士