沖縄の温泉

A Study on the Status of Okinawa Hot Springs (ONSEN)

国立大学法人琉球大学国際地域創造学部
ウェルネス研究分野 教授 医学博士
荒川 雅志

 日本は源泉数世界一を誇り、保養、健康増進分野、医学応用からエネルギー利用、観光資源、地域活性のテーマへと、多岐にわたる分野で温泉を利用している温泉大国で、47都道府県、全国津々浦々に温泉は存在していますが、日本の最南端に位置し南国のイメージ漂う沖縄県にも温泉があることはご存じでしょうか。
 沖縄県はアジアの玄関口という地理的位置関係にあり、珊瑚礁に囲まれた美しい島嶼観光地として知られます。近年は健康保養、人生の質を高める「ウェルネスツーリズム」への取り組みも盛んになってきています。日本およびアジア各国では高齢化が加速し、健康需要の高まりを背景に、ジャパニーズSPA(スパ)、日本型スパとしてのONSEN(温泉)を求める海外観光客も増えてきていますが、沖縄の温泉に関する情報はほとんど知られていません。

 世界的に成長著しい健康、ウェルネス、ウェルビーイングなどQOL(クオリティオブライフ)産業と観光を融合するウェルネスツーリズムの主たるコンテンツとして、温泉を利活用していくための基礎的研究の一貫に、沖縄の温泉に関する基本情報収集、整理実施したものを紹介します。

沖縄の温泉

 沖縄県は日本の最南端の県で、日本本土と東南アジアとのほぼ中間に位置し、南北約400km、東西約1,000kmに及ぶ広大な海域に散在する大小160の島々から構成されています。亜熱帯海洋性気候のもと、生物多様性、美しい珊瑚礁に囲まれた島嶼県の特徴を有しています。面積は2,281㎢、人口は1,467,800 人(沖縄県発表推計人口、2022年6月1日現在)です。

 日本の最南端に位置する沖縄県には日本本土のような火山性の温泉はなく、1,000m以上の深さまで掘削し、地下深くから汲み上げるという「大深度掘削」によるものでいくつか存在しています。土岐ら(2017)によると、竹富海底温泉(竹富島、八重山地方)が沖縄で唯一火山性の温泉である可能性があり、いくつか研究論文がありますが、それ以外の沖縄の温泉に関する学術的データはほとんど存在していません。

沖縄温泉の分布

 沖縄県の統計では、令和4年3月31日時点で20の源泉が確認されています(図1)。日本の47都道府県別でみると大分県が5,102と最も多く、次いで鹿児島県が2,751、北海道2,215、静岡県2,208と続くなかで、沖縄県は圧倒的に少なく、日本で最も温泉の少ない県となっています。

図1. 沖縄の温泉の分布

【沖縄本島北部地域(1温泉)】

❶ジュラ紀温泉・美ら海の湯

【沖縄本島中部地域(9温泉)】

❷伊武部温泉

❸タイガービーチ温泉

❹山田温泉

❺ギンバル温泉

❻伊計島温泉黒潮の湯

❼(ツカザン老健施設内利用・未公開)

❽北谷温泉

❾ちゃたん恵み温泉美浜の湯

❿エナジック天然温泉アロマ

【沖縄本島南部地域(6温泉)】

⓫那覇天然温泉美人湯

⓬ロワジールホテル三重城温泉

⓭太古海水温泉若水の湯

⓮瀬長島温泉

⓯沖縄逸の彩深層水温泉

⓰南城ゆいんち温泉琉球やはらの湯

【宮古地域(3温泉)】

⓱宮古島温泉

⓲宮古R-1号井

⓳宮古島シギラ温泉

【八重山地域(1温泉)】

⓴西表島温泉


沖縄の温泉の泉質、成分分析

 沖縄の温泉成分は、地下深くの地層の中に閉じ込められた太古の海水(化石海水)を汲み上げることで、海水が断層や破砕帯を通して時間をかけて地下にしみ込んだものが主です。沖縄の温泉の泉質を下表1に示します。含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉が最も多く5源泉、次いで、ナトリウム塩化物泉が3源泉、ナトリウム塩化物強温泉が2源泉、ナトリウム塩化物強塩泉が2源泉、ナトリウム-炭酸水素塩泉が2源泉となっています。これら以外は、ナトリウム塩化物温泉、ナトリウム-塩化物強塩温泉、単純温泉(低張性・中性)、単純温泉(低張性・弱アルカリ性)、単純温泉、温泉法第2条の該当する温泉(炭酸水素イオンが該当)がそれぞれ1箇所ずつとなっています。

表1. 沖縄の温泉の泉質


沖縄の温泉利用形態

 沖縄の温泉の利用形態を調査分類した結果を表4に示します。源泉をホテル施設内に有するか、ホテル敷地内に有し、主に観光客向けに利用しているものを「ホテル付帯施設型」とし、13箇所が該当しました。単独の施設として主に地域住民や観光客にも開放して利用しているものを「独立温浴施設型」とし、3箇所が該当しました。公共施設として利用しているものを「公共施設利用型」とし、1箇所が該当しました。高齢者の介護予防や機能維持向上を目的に利用しているものを「老健施設併設型」とし、1箇所が該当しました。スポーツクラブ内に有しているものを「スポーツクラブ付帯施設型」とし、1箇所が該当しました。これらの利用形態のほかに未利用の温泉が2箇所となっています。

表2. 沖縄の温泉の利用形態


沖縄温泉の利用者数

 沖縄の温泉施設の利用者数について全体を把握した統計はこれまで存在していません。ホテル付帯施設型13温泉のうち、9施設の宿泊者数の統計が平成30年度沖縄県環境白書に記載されており、この情報を参考にすると(表5)、9施設で2018 年では1年間に約140万人の宿泊者数がありました。このうち一定数の宿泊者が温泉を利用しているものと推測されます。環境省自然環境局が公開する令和2年度都道府県別温泉利用状況によると、沖縄県の温泉を有する宿泊施設利用人員は639,381人と公表されています。
 宿泊者以外でも外部からの訪問者も利用可能としているホテルも多く、さらに多くの温泉利用者がいるものと推定されます。

表3. 温泉宿泊施設の利用者数

 沖縄に存在する温泉の最新20箇所(2022年時点)について、筆者らはすべて訪問し調査を行いました。沖縄温泉の泉質、掘削深度、湧出量、温度などの基本情報や特徴を以下に紹介していきます。


沖縄の温泉の事例(本島北部・中部地域)


源泉名:ジュラ紀温泉・美ら海の湯

利用施設:ホテルオリオンモトブリゾート&スパ

・エリア:沖縄本島北部(本部町)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:1,500m
・湧出量:250ℓ/min
・温度:30.9℃
・特徴:地下1,500m、約2億年以上前の地層から湧き出る、源泉掛け流しの天然温泉。併設して海水温浴施設を有する。内風呂・半露天風呂・サウナからはオーシャンビューの絶景を楽しめます。陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムです。また、カルシウムやマグネシウムが約1000mg/kg、よう化物イオンが約20mg/kg含まれていることが特徴的です。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態改善、皮膚乾燥症

写真提供:ホテルオリオンモトブリゾート&スパ


源泉名:伊武部温泉

利用施設:ハレクラニ沖縄

・エリア:沖縄本島中部(恩納村)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:単純温泉(低張性・弱アルカリ性)
・深度:1,201m
・湧出量:175ℓ/min
・温度:35.8℃
・特徴:肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴です。県内他の温泉と比較し溶存物質は少なく、炭酸水素イオンは多いのも特徴として挙げられます。
(泉質別適応症)
浴用:自立神経不安定症、不眠症、うつ状態改善

写真提供:ハレクラニ沖縄


源泉名:タイガービーチ温泉

利用施設:ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート

・エリア:沖縄本島中部(恩納村)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物泉
・深度:1,200m
・湧出量:366ℓ/min
・温度:35.8℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムです。ホテルに併設されたスパ「ブルーリーフ」内にある温泉で、加温され浴槽に提供されています。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態改善、皮膚乾燥症

写真提供:ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート


源泉名:山田温泉

利用施設:ルネッサンスリゾートオキナワ

・エリア:沖縄本島中部(恩納村)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:温泉法第2条の該当する温泉(炭酸水素イオンが該当)
・深度:8m
・湧出量:150ℓ/min
・温度:24.0℃
・特徴:肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴です。県内他の温泉と比較し溶存物質は少なく、炭酸水素イオンは多いのも特徴として挙げられます。沖縄の中では歴史が古い温泉として知られます。
(泉質別適応症)
浴用:自立神経不安定症、不眠症、うつ状態改善

写真提供:ルネッサンスリゾートオキナワ


源泉名:伊計島温泉黒潮の湯

利用施設:AJリゾートアイランド伊計島

・エリア:沖縄本島中部(うるま市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:1,135m
・湧出量:420ℓ/min
・温度:48.0℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムです。よう化物イオンが約30mg/kg含まれています。内風呂や露天風呂があり無料で開放されている温泉利用した足湯もあります。沖縄県内では数少ない貸切風呂を楽しむことができます。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態改善、皮膚乾燥症

写真提供:筆者撮影(協力:AJリゾートアイランド伊計島)



源泉名:北谷温泉

利用施設:レクー沖縄北谷スパ&リゾート

・エリア:沖縄本島中部(北谷町)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:単純温泉
・深度:1,403m
・湧出量:330ℓ/min
・温度:36.0℃
・特徴:肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴です。県内の温泉では2番目に塩化物イオンが少ない単純温泉です。
(泉質別適応症)
浴用:自立神経不安定症、不眠症、うつ状態改善

写真:筆者撮影(協力:レクー沖縄北谷スパ&リゾート)


源泉名:ちゃたん恵み温泉美浜の湯

利用施設:北谷公園温水利用型健康運動施設、美らー湯

・エリア:沖縄本島中部(北谷町)
・利用形態:公共施設利用型、独立温浴施設型
・泉質:ナトリウム-炭酸水素塩泉
・深度:1,400m     
・湧出量:326ℓ/min
・温度:41.5℃
・特徴:陰イオンの主成分である炭酸水素イオンが県内の温泉ではもっとも多いのが特徴です。陽イオンの主成分はナトリウムです。また湧出時のpHが8.5以上あるアルカリ性の温泉であり、pHも県内の温泉で最も高いのも特徴です。源泉かけ流しの露天風呂が男女共にあり、屋外には温泉を利用したヒーリングプールがあります。施設入り口には無料で利用できる足湯が設置されています。化粧水のような肌触りが特徴で天然保湿成分のメタケイ酸含有量が多く硫黄の香りがする美肌の湯とされます。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症

写真提供:Terme VILLA ちゅらーゆ


源泉名:エナジック天然温泉アロマ

利用施設:エナジック天然温泉アロマ

エリア:沖縄本島中部(宜野湾市)
利用形態:独立温浴施設型
泉質:ナトリウム-塩化物泉
深度:1,300m
湧出量:1,000ℓ/min
温度:40.0℃
特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムです。沖縄県内では珍しい日本庭園を眺めながら湯に浸かることができます。岩風呂、ヒノキ風呂など多彩なお風呂を楽しめ、男女別の休憩室や食事処があるため長時間滞在することができる日帰り温泉施設となっています。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態改善、皮膚乾燥症

写真提供:エナジック天然温泉アロマ


沖縄の温泉の事例(本島南部地域)


源泉名:那覇天然温泉美人湯

利用施設:ゆんたくあしび温泉りっかりっか湯

・エリア:沖縄本島南部(那覇市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物泉
・深度:214m        
・湧出量:70ℓ/min
・温度:25.1℃
・特徴:天然温泉を利用した露天風呂がある。また内風呂は泡風呂、ジェットバスなど種類が多い。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態改善、皮膚乾燥症

写真提供:那覇セントラルホテル


源泉名:ロワジールホテル三重城温泉

利用施設:ロワジールホテル那覇

・エリア:沖縄本島南部(那覇市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:800m
・湧出量:442ℓ/min
・温度:40.6℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムである。カルシウムが約450mg/kg、よう化物イオンが約30mg/kg含まれている。県内の他温泉と比較しストロンチウムを多く含有している。約800万年前の地層の温泉(化石海水)。ホテル本館には広々した内湯、露天風呂、温泉を利用したプールがある。別館のスパタワーにはリゾート感溢れる大浴場や温泉付き客室がある。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真提供:ロワジールホテル那覇


源泉名:太古海水温泉若水の湯

利用施設:スポーツパレスジスタス浦添

・エリア:沖縄本島南部(浦添市)
・利用形態:スポーツクラブ付帯施設型
・泉質:含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:1,560m
・湧出量:300ℓ/min
・温度:51.0℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムである。カルシウムが約500mg/kg、よう化物イオンが約25mg/kg含まれている。浴場は源泉を利用した内風呂、露天風呂が併設されている。また施設プール内にも水着を着用して入れる温泉がある。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真提供:スポーツパレスジスタス浦添


源泉名: 瀬長島温泉

利用施設:琉球温泉瀬長島ホテル

・エリア:沖縄本島南部(豊見城市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:1,000m
・湧出量:510ℓ/min
・温度:50.0℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムである。カルシウムが約400mg/kg、よう化物イオンが約30mg/kg含まれている。県内の他温泉と比較しストロンチウムを最も多く含有している。岩風呂や寝湯など多彩にある。沖縄ではここにしかない、東シナ海を眺めながら浸かれる立ち湯露天風呂がある。ホテル内には温泉付き客室が多い。
 (泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真提供:琉球温泉瀬長島ホテル


源泉名:南城ゆいんち温泉琉球やはらの湯

利用施設:ユインチホテル南城さしきの猿人の湯

・エリア:沖縄本島南部(南城市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・泉質:含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:2,100m
・湧出量:187ℓ/min
・温度:57.5℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウムである。マグネシウムが約500mg/kg、よう化物イオンが約90mg/kg含まれている。県内では最大深度の地下2,100mから2つの異なる時代の地層から湧出する天然温泉(化石海水)。よう化物イオン、メタほう酸含有量も多いため個性のある香りがする。浴室内の展望風呂からは中城湾を見渡すことができる。また、薬湯、打たせ湯、貸切風呂やリラクゼーションルームなど充実した施設になっている。ホテル宿泊棟には温泉付き客室もある。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真提供:ユインチホテル南城



沖縄の温泉の事例(宮古地域・八重山地域)


源泉名:宮古島温泉

利用施設:宮古島温泉

・エリア:宮古地域(宮古島市)
・利用形態:独立温浴施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:1,500m     
・湧出量:306ℓ/min
・温度:48.0℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウム。またマグネシウムが約400mg/kg、よう化物イオンが約20mg/kg含まれている。内風呂、露天風呂があり、多彩な貸切風呂(岩風呂、檜風呂など)がある。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真:宮城左代子氏提供


源泉名:宮古R-1号井

利用施設:宮古島市海宝館(現在未利用)

・エリア:宮古地域(宮古島市)
・利用形態:独立温浴施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物強塩泉
・深度:2,431m
・湧出量:464ℓ/min
・温度:68.7℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウム。またマグネシウムが約400mg/kg、よう化物イオンが約20mg/kg含まれている。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真:筆者撮影 (現在未使用)


源泉名:宮古島シギラ温泉

利用施設:シギラ黄金温泉(南西楽園リゾート)

・エリア:宮古地域(宮古島市)
・利用形態:独立温浴施設型
・泉質:ナトリウム-塩化物泉
・深度:1,200m     
・湧出量:470ℓ/min
・温度:49.8℃
・特徴:陰イオンの主成分が塩化物イオン、陽イオンの主成分はナトリウム。楽園リゾートな沖縄らしい雰囲気の露天風呂、展望風呂、水着着用して入れるジャングルプールや洞窟湯や寝湯、多彩なサウナあり。プライベートルーム(貸切風呂)も充実。
(泉質別適応症)
浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

写真提供:南西楽園リゾート


源泉名:西表島温泉

利用施設:西表島温泉カンパネルラの湯

エリア:八重山地域(竹富町)
利用形態:ホテル付帯施設型
泉質:単純温泉
深度:16m
湧出量:2.7ℓ/min
温度:29.0℃
特徴:肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴。
(泉質別適応症)
浴用:自立神経不安定症、不眠症、うつ状態

写真:筆者撮影(協力:ラ・ティーダ西表リゾート)

 沖縄県行政がリストしている温泉以外に、新設されたホテル付帯施設型の温泉が沖縄本島の那覇エリアに新たに2箇所(那覇市)、および沖縄県行政では温泉として把握していないが沖縄で唯一火山性の温泉である可能性がある竹富海底温泉(竹富島)については、今後の取材調査対象としています。

・HOTEL SANSUI NAHA 琉球温泉 波之上の湯(那覇市)

沖縄逸の彩温泉リゾートホテル(那覇市)


海水温浴施設について

 温泉の少ない沖縄では、海に囲まれ海洋資源を健康資源として活用するタラソテラピー施設がいくつか存在します。海水は濃い食塩泉に代替され、よく温まるなど効果が期待できます。タラソテラピー(Thalassotherapy)とは、ギリシャ語のthalasso(海)、フランス語のtherapie(治療)の複合語で、日本では「海洋療法」と名付けられています。海洋療法は海を活用した自然療法であり、美しい自然の海洋環境がもたらす快適性や海洋生物などの資源を最大限活用して心身を癒すものです。世界では、地中海沿岸国(フランス、イタリア、スペイン、ギリシャ、チュニジアなど)にタラソ施設、併設ホテルが多く存在します。この分野での先進国であるフランスでは医療機関への併設や一部保健適用がされていたなど現代西洋医学との融合が図られています。アジアで最も海洋療法施設が多いのは日本で、沖縄には、アジア最大級の海水流水利用面積を誇る海水温浴施設や、沖縄初のリゾートホテル併設型海水温浴施設が存在しています。

利用施設名:タピックタラソセンター宜野座

・エリア:沖縄本島中部地域(宜野座村)
・利用形態:独立温浴施設型
・海水タイプ:表層海水取水利用
・特徴:アジア最大級の海水流水利用面積

写真提供:タピックタラソセンター宜野座


利用施設名:テラスクラブ・アット・ブセナ

・エリア:沖縄本島北部地域(名護市)
・利用形態:ホテル付帯施設型
・海水タイプ:表層海水取水利用
・特徴:沖縄初のリゾートホテル併設型海水温浴施設。屋外型多機能海水温水プール。

写真提供:テラスクラブ・アット・ブセナ


アフターコロナのウェルネス、ウェルビーイングと温泉

 観光業界の最新トレンドおよび消費者動向を調査したWTTC世界旅行ツーリズム協議会のレポートによると、新型コロナ感染拡大の影響で健康意識が高まり、セルフケアやウェルネス活動を模索するトレンドが強まること、心身の癒し、輝く人生をテーマとしたウェルネスツーリズムは今後も長期的な成長が見込まれると報告しています。ポストコロナの一大転換期として、次世代ヘルスケアに相当する新しい時代のウェルネスツーリズムを、温泉を中心に日本から発信していくことは大きな意義があると考えられます。

 海外では、ウェルネスツーリズムはSPAツーリズムとして理解されているケースが多く、SPA(温浴、温泉)を主要コンテンツとするディスティネーションも多くみられます。海外では温泉は“Hot Spring”、あるいは“Spa”と表記されますが、温泉は“ONSEN”とそのまま呼ばれ日本固有のスパであるという認識もされつつあります。我が国は世界有数の温泉大国であり、古来より温泉を重要な保養と健康医療の資源として活かしてきた歴史的事実があります。海外スパとの差別化戦略の観点でも日本の温泉文化は強力なキラーコンテンツになり得ます。日本の温泉医学研究は世界をリードしており、温浴と効能の機能的価値、温泉にまつわる歴史、数々のエピソードといった情緒的価値を織り込んでいけば、温泉は有力なウェルネス資源として日本型ウェルネスツーリズム・コンテンツの主軸になるのではと考えられます。

リジェネラティブな温泉地の再生 
~自然の再生、地域の再生、人の再生~

 温泉源泉数、温泉利用施設数は日本のなかでは圧倒的に少ない沖縄ですが、温泉を求める外国人観光客や、健康に関心が高いシニア高齢世代、そして今後アジア諸国も高齢社会に突入していくことから、潜在的需要は高いと考えられます。アフターコロナの観光再生のテーマのひとつに地域回帰があり、固有の地域資源を「ウェルネス資源」として温泉を活かした観光やまちづくりへの展開が期待されます。

 温泉地の再生を、自然、地域のサステナブル(持続可能)概念に基づき、そこに「人の再生」(健康、ウェルネス)を掛け合わせることで、サステナブルツーリズム、ウェルネスツーリズムが共に進化を遂げる新しい時代のツーリズムの成立を当ウェルネス研究分野では研究、開発を進めています。

 次世代型観光といわれるリジェネラティブツーリズム(Regenerative Tourism)の考えに沿って、そこには「自然の再生(循環環境、共生)」「地域の再生(コミュニティ力回復、文化伝統の継承)」「人の再生(健康、ウェルネス)」という3つの再生と創造を柱とした地方創生のアプローチが温泉を中心に展開、成功事例が日本から誕生することを期待しています。

  ●自然の再生(循環環境、共生)
●地域の再生(コミュニティ力回復、文化伝統の継承)
●人の再生(健康、ウェルネス)


謝辞: 本稿作成にあたり快く取材ご協力および写真ご提供いただきました沖縄県内温泉施設の皆様にここに感謝申し上げます。

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参考文献

  1. 荒川雅志, 姜 享淑, 他. 沖縄県の温泉について 沖縄の温泉に関する基礎的研究(1), 温泉 90(3) 34-37 2022.
  2. 荒川雅志, 姜 享淑, 他. 沖縄県の温泉について 沖縄の温泉に関する基礎的研究(2), 温泉 90(4) 32-35 2022.
  3. 荒川雅志, 姜 享淑, 他. 沖縄県の温泉について 沖縄の温泉に関する基礎的研究(3), 温泉 91(1) 30-32 2023.
  4. 荒川雅志, 姜 享淑, 他. 沖縄県の温泉について 沖縄の温泉に関する基礎的研究(4), 温泉 91(3) 26-28 2023.
  5. 荒川雅志, NPO日本スパ振興協会編著. ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~, フレグランスジャーナル社, 2017.
  6. 荒川雅志. ウェルネス、ウェルネスツーリズムと沖縄. 南方資源利用技術研究会誌 34(1), 1-6, 2019.
  7. 土岐知弘. 沖縄における天然ガス及び温泉の分布. 2018年度日本地球化学会第65回年会講演要旨集, p70. 2018.
  8. 沖縄県環境部自然保護課. 沖縄県における源泉及び温泉利用施設一覧. https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/onsen/onsen.html. (2022年7月7日閲覧)
  9. Global Wellness Institute, 2016. https://globalwellnessinstitute.org/press-room/statistics-and-facts/ (2022年7月7日閲覧)
  10. 環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室. 令和3年度温泉利用状況
    https://www.env.go.jp/nature/onsen/pdf/3-5_p_1.pdf
  11. TRENDING IN TRVEL世界の最新消費者動向
    https://pages.trip.com/images/group-home/2021_Trending_in_Travel_JP.pdf
  12. 荒川雅志. アフターコロナの旅と健康: ウェルビーイングを達成する新しいウェルネス,ウェルネスツーリズムの定義. Precision medicine 6 (2), 145-148, 2023.
  13. 荒川雅志. 海と健康、ウェルネス: 海洋療法と観光の融合. 人間生活工学 23 (2), 24-28, 2022.
  14. 荒川雅志. ウェルネスの本質 TRAVEL JOURNAL 58(35) 10-11 2021.
  15. 荒川雅志. ウェルネスをコンテンツに誘客を〜世界へ通用するJAPANブランドウェルネスとは〜 HOTERES 54(18) 52-53 2019.