世界5大長寿地域“ブルーゾーン”沖縄に学ぶ健康と長寿の知恵、ポストコロナを生き抜く力~ウェルビーイングを手に入れるウェルネスの島沖縄、リジェネレーションの島沖縄へ~

琉球大学国際地域創造学部
ウェルネス研究分野
教授 医学博士 荒川雅志

“Learning the Wisdom of Health and Longevity from Okinawa, one of the World’s Five ‘Blue Zones’: The Strength to Survive Post-Coronavirus – Embracing Well-being in Okinawa, the Island of Wellness and Regeneration.”

≪Author Profile≫

Masashi Arakawa
Professor of Wellness Studies, Faculty of International and Regional study, University of the Ryukyus. Ph.D. of Medicine.

Born in Fukushima Prefecture in 1972. He completed his studies at the Graduate School of Medicine at Fukuoka University, specializing in social medicine and epidemiology. His research centered on the lifestyles of centenarians in Okinawa, one of the world’s five “Blue Zones” known for longevity, and on Okinawa’s beauty and health ingredients. With a doctorate in medicine, he is a leading expert on wellness research and wellness tourism originating from Japan, and he is also a scholar in thalassotherapy.

He translated and supervised the U.S. business bestseller, “THE BLUE ZONE, 2ND EDITION: Learning Health and Longevity from the World’s Centenarians The Nine Rules.”

長寿の要因

 長寿には、大きくは遺伝など「先天的要因」と、社会環境や生活習慣などの「後天的要因」があり、これらのマルチプルファクター(複合要因)によるものと考えられています。なにかひとつが特徴的に秀でていても長寿には到達できないものです。長寿は遺伝だからと嘆く人もいますが、寿命への遺伝素因の寄与率はせいぜい15%から25%であることがデンマークの双子研究を基に推計されています。生まれた後の要因の方が最大75%とはるかに大きく、居住国の経済レベル、医療レベル、保健福祉政策、衛生環境の改善などの社会環境要因や、食、運動、休養のいわゆる健康3本柱、ストレスマネジメントなどライフスタイル要因が健康と長寿に大きく関係していることが明らかとなっています。
 現代の長寿科学は、ゲノム解析をはじめ、ゲノム編集、再生医療、ビッグデータ駆使といった科学技術の進歩とともに歩んでいますが、こうした最新のテクノロジーは、抗老化、寿命の延伸に大いに寄与してきましたが、よりよく生きる、生き方への問いに答えられるものではありません。

長寿命日本でなく、健康長寿、ウェルネス長寿日本へ

 世界保健機関(WHO)が発表した2021年最新の統計によると、日本人の平均寿命は84.3歳で世界一と、統計を遡ることができる年から長寿世界一の座を守り続けています。しかしながら、自立した生活を送れる期間を表す「健康寿命」をみると、2015年度の世界疫病負担研究(Global Burden of Disease)では平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、調査が実施された世界131ヵ国中60位との報告もあります。
 大切なのはその中身、活き活きと輝く日々を過ごしながら長生きすることでしょう。長寿世界一を達成した日本の次なる課題として、生きがいある健康長寿、“ウェルネス長寿”をいかに達成するかが問われています。沖縄はかつて人口十万人あたりの百歳者の数で37年連続日本一の長寿の島でありました。ただ長生きではない、長寿者のライフスタイル、生きる知恵を説くルポルタージュ、全米ベストセラーとなった著書”The Blue Zones”にも沖縄は紹介され、世界でもブルーゾーン沖縄として認知されています。

ブルーゾーンとは

 イタリア人の医師ジャンニ・ペスは、国勢調査のデータを使ってイタリア・サルデーニャ島の孤立した地域を探し出し、そこに世界で最も百歳者の男性が集中していることを発見、ブルーゾーンという言葉をこの地に最初に適用しました。その後、ベルギーの疫学者ミシェル・プーランがペスの発見を国際的に確認し、2004年『Journal of Experimental Gerontology』誌に発表しました。国際的な自然科学商業誌「ナショナル・ジオグラフィック」の記者・冒険家であるダン・ビュイトナーは、ブルーゾーンという言葉に触発され、この言葉を日本の沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島、ギリシャのイカリア島に広げ、各国の研究者、医師らの協力によりブルーゾーンを人口統計学的に確認された長寿の場所の国際的呼称として確立しました。

 現地調査、取材を重ねていく結果、世界5大長寿地域ブルーゾーンに共通する百歳者に学ぶ健康と長寿の秘訣が9つのルールにまとめられました。

ルール1  適度な運動を続ける

ルール2  腹八分で摂取カロリーを抑える

ルール3  植物性食品を食べる

ルール4  適度に赤ワインを飲む

ルール5  はっきりした目的意識を持つ

ルール6  人生をスローダウンする

ルール7  信仰心を持つ

ルール8  家族を最優先にする

ルール9  人とつながる  基本的な生活習慣が大切であることに加えて、心構えや人生に対する姿勢、そして家族、地域、社会との「つながり」が大切であることをあらためて気づかされるものです。

沖縄の健康長寿の諸要因

 ベストセラー著者ビュイトナーと私は、2000年に沖縄入りした際に、長寿村として知られた大宜味村への取材に案内同行した経緯があります。当時私は医学研究科の博士課程生で、沖縄県庁が毎年百歳となった長寿者全員を調べるという健康調査の分析を担当していました。百歳者1,813名を分析した世界最大規模の疫学研究(Arakawa,2005)をはじめその後の調査から沖縄の健康長寿を支える要因を総括すると、亜熱帯海洋性気候に属し、年間を通し温暖であることによる身体活動量の確保、地域固有の食材、独特の食文化、伝統的風土の継承、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の存在などが挙げられます。沖縄長寿者に特徴的なライフスタイルをまとめると、

●食生活・食文化

  医食同源、薬食同源の思想

  伝統的調理法(ゆでこぼし、鰹だしによる低塩分化)

●身体活動・運動

  生涯現役意識(仕事の引退年齢:過半数が70歳以降)

  運動習慣(温暖な気候で冬場の活動量が落ちない)

  社会活動の高さ(老人クラブ・地域行事の参加率)

●休養・睡眠

  昼寝習慣(日本で唯一シエスタ文化を有する地域)

  良質の睡眠(東京と比べ睡眠障害有症率が低い)

●社会関係資本

  ソーシャルサポート(精神的支え)

  模合文化(ユイマール:相互扶助)

が特徴としてあげられます。

ブルーゾーン沖縄の食文化

 亜熱帯海洋性という気候特性、島嶼という固有の生物多様性環境のもとに育まれた天然素材、食素材は沖縄の大きな魅力です。注目すべきは、こうした素材の成分分析、機能性、そして健康や美容に着目した効果が明らかにされはじめたのは、沖縄ブームが本格化した2000年代からと近年であることです。すなわち、まだまだ解明されていない素材の潜在力が潜む可能性があり、今後、掘り起こされていくことが期待されます。

 長寿者の食生活を調査した結果では、豚肉、豆腐(島豆腐)を豊富に摂取し、筋力が衰える高齢期になっても良質な蛋白質をしっかり摂る習慣があること、昆布、モズクなど海藻類も豊富に摂取しミネラルバランスが良好であること、野菜を豊富に摂取することが特徴でした。沖縄の農産物は、海洋性気候の雨風に晒され、琉球石灰岩の土壌で育ちミネラルが豊富です。本土に比べ紫外線の量が多い太陽のもとで育った島野菜は抗酸化力が高く、薬草、滋養強壮食材として長寿者の食卓に伝承されていました。

 沖縄独自の食文化は14世紀から15世紀にかけての琉球王国の誕生にともない形成され、現在の福建省からの職能集団“久米三六姓”の渡来や“冊封使時代”を通して中国文化の影響を受け、「医食同源」あるいは「薬食同源」として沖縄方言での「ヌチグスイ(命の薬)の思想がしっかりと根付いてきています。将来にわたって保存、普及、継承、発展させるべきものとして「沖縄食文化の魅力味わい事業」(平成27年度、文化観光スポーツ部文化振興課)に私も座長として参画した委員会では、琉球料理および沖縄の伝統的な食文化の定義化を試み、一定の輪郭をまとめるに至りました(図1)。 「沖縄の伝統的な食文化の普及推進計画(第1期計画)」では、琉球料理伝承人の養成や、ユネスコ無形文化遺産登録に向けた県民の気運醸成を図り、独特な食文化の保存・普及・継承に取り組んできています。令和4年度からは第2期計画が策定され、令和8年度までを期間として「琉球料理が味わえる店」(仮称)の認証制度の構築などを含む様々な取り組みが計画されています。

図2.琉球料理+要素ごとの特徴=沖縄の食文化


図1. 琉球料理+要素ごとの特徴=沖縄の食文化

健康長寿ダイエットレシピの開発

 琉球大学ウェルネス研究分野と一般社団法人食の風では、沖縄県産食材の流通促進、6次産業の振興、そして沖縄の健康長寿復活に寄与する啓発活動の一環として、沖縄島食材を使っての『健康長寿ダイエットレシピ』共同開発を行いました。

主な特徴は、

  1. 沖縄の伝統島野菜28種類を多く採用
  2. 沖縄の海産物、海藻類を多く採用
  3. 沖縄の食文化、伝統的調理法を採用
  4. 適正カロリー(総カロリーが600kcal未満)
  5. 低塩分(2.5g未満)
    (ダイエットレシピ監修:琉球大学荒川雅志)

とヘルシーでありながら、美味しく色鮮やかに見た目も楽しめるシリーズとなっています。管理栄養士によるレシピの開発、カロリー計算、試作試食を重ね、第一弾として、主食6種類、副菜6種類、副々菜6種類の計18通りの沖縄健康長寿ダイエットレシピが完成しました。

 “ダイエット”とは、単に体重減量することではありません。本来の意味として、ダイエットの語源である古代ギリシア語のディアイタ(diaita;生活様式、生き方)に由来する考え方をもとに、我々は沖縄の島食材、食文化を通した食養生、正しい生活様式を伝えることを目的に、その結果として健康長寿沖縄の復権を目指すものです。
 沖縄の地に息づく健康長寿の資源と長寿者の知恵。世界5大長寿地域ブルーゾーンとして、かつて世界一を達成した資源に出会う機会を新しい観光を通して提供することができないだろうか。県外や海外の方々はもちろんのこと、沖縄の人々も身近にある価値を再発見し、見直す機会となる、このような体験の機会を提案しています。

“ブルーゾーン沖縄健康長寿ダイエットツアー”
―生体リズム調整、沖縄の地域資源を睡眠、食、運動のウェルネス資源として活かした滞在プログラム―

 沖縄では慌ただしく時間に追われることなく、日が昇れば活動し、日が落ちたら体を休めるというように、自然のリズムに逆らわない暮らしがいまだに健在です。ありのままの自然に身を委ね、地域の伝統的な行事や模合に象徴される会合は盛んで、ソーシャルネットワークに支えられ、ストレスが少なく人々は活き活きとしています。
 海洋性の食材を現代風にアレンジして魅力ある美と健康の食養生法(スパキュイジーヌ)や、健康長寿者のライフスタイル、知恵といった資源を活かし、沖縄の伝統文化をフィットネス(琉球舞踊、沖縄空手)としたウェルネスツーリズムのモデルを開発・提案しています(2016 荒川)。
沖縄健康長寿ダイエットプログラムで構成する1日のモデルを以下に示しました。

  1. 朝: *朝の光を浴び生体リズムを整えるビーチウォーキング
    (*選択)*海風を浴びながらのビーチヨガ呼吸法レッスン
  2. 朝食:島野菜と果物の沖縄デトックススムージー
  3. 午前:*海岸地形を活かしたノルディックウォーキング
    (*選択)*雨天でも可能なタラソアクアフィットネス
    *伝統文化芸能アクティビティ(琉球舞踊フィットネス、沖縄空手エクササイズ)
  4. 昼食:琉球アーユルヴェーダ創作料理
  5. 午後:観光地巡り(地域散策)や琉球文化の創作的アクティビティ
  6. 夕食:沖縄海洋性食材を中心とした健康長寿ダイエットレシピ
  7. 夜: スパや温泉でリラックス
    (ぬるめの温度によるスパ・温泉入浴によって深部体温を緩やかに上昇させる結果、就床時の体温下降を急激にし、入眠潜時の短縮や深い睡眠を促す。ぬるめのお湯は副交感神経を優位にさせ、心身のリラックスをもたらす)

 旅本来の特性である楽しみの要素を損なわぬよう、プログラムを詰め込みすぎず、夜の過ごし方やアルコールの嗜みには柔軟性を持たせることが肝要です。その代わりに朝の過ごし方に重点を置き、生体リズム調整を図る朝のプログラムを起点とした滞在メニュー構成が実行しやすいでしょう。目覚めてすぐ太陽の光を浴びることで体内時計の調整を促進します。あわせて朝の軽い運動は体温を緩やかに上昇させ、生体リズムを活性化させるのに効果的です。体温も上がり代謝機能も高まる午前中は、比較的高強度のアクティビティを組み、午後はゆったりとした時間の過ごし方とします。保養地の豊かな自然環境を活かして生体リズムに働きかける仕組みを意識的に心がけ、適切なタイミングで旅程に組み込むことによって、24時間社会で現代人の乱れた体内時計のリセットに寄与する旅ともなります。

 沖縄本島南部に位置する南城市には、琉球王国時代の最高の聖地とされる世界遺産「斎場御嶽(せーふぁうたき)」や、琉球の創世神が天から降臨した神の島「久高島」がありますが、こうした精神風土、文化をウェルネス資源と捉えて、メンタルヘルスや企業社員の生産性向上に活かす独創的なウェルネスツーリズムをモデル開発しています。精神文化資源に触れ心身ともにリフレッシュするとともに、日常とは違う環境に身を置き、違った視点から自分自身や身の周りの環境を見つめ直す「原点回帰」プログラムを提供して、沖縄の新たな価値を発信しています。

坐禅(写真左)、朝ヨガ(写真右)

沖縄は長寿ではないのか?

 かつて世界一であった沖縄県が長寿転落の一途を辿っていることが報道等で取り上げられますが、その多くはただ転落を嘆く画一的な論調です。戦後の米軍統治下、ファーストフードに象徴される米国型食習慣が急激に流入し、こうした生活に幼少青年期に強くさらされた県民が、いま中高年世代になり日本一の肥満県となっています。肥満は重篤疾患の要因であり死亡率を高めます。また、成人ひとり1台ともいわれる自動車生活の浸透で運動不足が起こっている影響も指摘されます。要因はほぼ解明されており、食の面からは沖縄の伝統的食文化を継承する意識が薄まった若年世代、中年世代の健康が脅かされて転落したという実態が浮かびあがっています。

 沖縄に健康と長寿の学びはもはや完全に失われてしまっているのでしょうか?厚生労働省発表の都道府県別平均余命によると、沖縄県の75歳以上高齢者は全国女性1位、男性2位と男女平均では依然として日本一をキープしています。また、65歳以上の平均余命では男性は6位に甘んじていますが、女性は1位であります。日が昇れば活動し、日が落ちたら体を休めるというように、自然のリズムに逆らわない暮らしがここにはあります。地域の伝統行事や模合(もあい)に象徴される会合は盛んで、強固なソーシャルネットワークに支えられ、ストレスが少なく長寿者は活き活きとしています。

 沖縄が世界一の長寿地域を達成したのは事実であり、古き良き生活様式や健康資源は高齢世代でいまだ受け継がれて“ここに在る”と考えるのが妥当です。ただしそれらを活かしきれていないことは確かであり、今こそブルーゾーンでもある沖縄の長寿の知恵に再注目すべき時であります。

ブルーゾーン沖縄が世界に提案できる次世代ライフスタイル

 世界的ホテルチェーンを展開するマーケティング代表らによると、“Okinawa is Blue Zone!” (沖縄はブルーゾーン!) と認識する海外富裕層が多いことが報告されています。2005年、世界最大の自然科学商業誌「ナショナル・ジオグラフィック」に沖縄の長寿の秘訣が36言語に翻訳、180カ国以上に紹介されました。ビュイトナーによるベストセラー書はシリーズ化され、ブルーゾーンは今もホンモノを求める世界中の富裕層、特に知識階層に訴求力あるワードとなっています。

 世界に5つしかないブルーゾーンの一つが沖縄であるという大きな価値を理解して、ここには一世紀を生き抜いた人々の健康と長寿の知恵がある、それはただ長生きではない、輝く人生、よりよく生きるを意味するウェルネス、“ウェルネス長寿”があることを発信していくべきでしょう。0.1歳刻みの寿命統計の結果に一喜一憂するのではなく、大きな変革の時代に合わせ、世界中で増加する次世代ライフスタイル志向層に受容されるための創造力と発信が今、沖縄には求められています。

 沖縄の風土柄培ってきたウチナータイム(沖縄時間)は、次世代生活創造者にとってはスロースタイル、スローライフの精神で、ゆっくり時が流れるのを楽しむ、こころ穏やかに、忘れかけた大切な時間に気づかせてくれる価値が発信できます。リゾート沖縄は都会からのリトリート(回避)と非日常の上質な空間、異日常の刺激と発見を提供し、レジャーとしての海だけでなく、文明最古の医療の場が海だったという本来価値を打ち出して、免疫力、自然治癒力を高める海洋療法を推奨する。沖縄地産、スローフードでインナービューティー(内からの美と健康)を磨き、伝統文化資源はチームビルディングを高める効果的な企業研修素材として提供し、イチャリバチョーデー(一度会えば皆兄弟)の精神で真正のホスピタリティマインドに癒され、何度も訪れる地、第三の地、ウェルネスサードプレイスとなる・・・。

 このように、ブルーゾーン沖縄には健康と長寿の知恵はもとより、新しい生き方探しの一助となる知恵があると考えています。沖縄の人々こそ身近にある価値を再認識し、見直す機会となる、健康で幸せな暮らしを見せることが観光にも大きく繋がっていくことです(図2)。

図2. 次世代生活創造者が求める高付加価値発信へ



ポストコロナに向けての生き方のヒント“つながり”

 ブルーゾーンの長寿者に学ぶ健康と長寿の9つのルールの最後には“つながり”が挙げられています。

 人の長寿要因は「社会とのつながり」が一番大きいことが研究報告されています。ライフスタイル別での長寿への影響を比較した結果、「社会とのつながりの種類や量が多い」「社会とのつながりを介して受け取る支援が多い」この2つと比べて、「煙草を吸わない」「アルコールを飲みすぎない」「運動する」「太りすぎない」というよくある健康習慣よりも長寿に強い関連を持っていることが明らかとなっています。

 ブルーゾーンで紹介される長寿者たちは共通して家族とのつながり、友人知人とのつながり、地域社会とのつながりが強固で、お互いに支え合うことが精神的にも安定をもたらし、ストレスを減らし、そして生きる気力となっていました。美しくも時に大災害をもたらす自然への畏敬の念と共生(自然とのつながり)、世代を超えて受け継いできたライフスタイル(先人の知恵とのつながり)、相互扶助、コミュニティ力(地域とのつながり)を大切にし、その結果、健康長寿を手に入れました。つながりが長寿の秘訣であることを医科学研究以前に身をもって実証した存在といえましょう。

 アフターコロナの時代を生きる我々にとって、生きるヒント、生き方のヒントとして、改めてつながりの大切さを教えてくれるブルーゾーンには、今こそ再び注目すべき価値があります(図4)。

“リジェネレーション”(Regeneration)、
“リジェネラティブトラベル”(Regenerative Travel)、
“リジェネラティブツーリズム”(Regenerative tourism)

 近年、研究の世界では、ここ最近の世界共通テーマであるサステナビリティ(持続可能)では限界があり、新たに「再生」しながら繁栄していく「再生可能な持続可能性」、そして「創造」までの意を含む“リジェネレーション”(Regeneration)、ツーリズムにも“リジェネラティブトラベル”(Regenerative Travel)あるいはリジェネラティブツーリズム”(Regenerative Toursim)が登場してきています。

 アメリカの環境保護活動家、起業家でもあるポール・ホーケンは、あらゆる行動や決定の中心に、人を含む「生命」を据えることの重要性を説いています。自然環境を生き返らせるだけでなく、人々を活気づけ、生計手段を生み、人々を生き返らせる仕事やウェルビーイングに貢献できる仕事を創造することが持続可能性の次の波と呼ばれています。人間と他の生命、自然環境、地球をも一つの自己生産システムとして捉え、ホリスティック(全体論的)な世界観に基づき、「生命万物の意思」という血液がからだ全身に行き渡り、循環し、成長し、繁栄につながっていくものでありましょう。人不在の自然環境も成り立ちはしますが、人もシステムの一部であり、人が構築していくもの、日本の里山文化のようにそこで暮らす人々の生活・なりわいと共生し、手を加えられ利活用されることで守られていった自然もあります。

 観光では、“リジェネラティブトラベル”(Regenerative Travel)、リジェネラティブツーリズム”(Regenerative Toursim)が環境に優しいにとどまらず、環境を良くする観光、訪れれば訪れるほどその地域が良くなっていく観光となります。
 サステナブルツーリズム(持続可能な観光)の場合、観光によるマイナス影響とプラス影響のトレードオフになることが多いのに対し、リジェネラティブツーリズム(再生可能観光)は環境再生や地域文化・社会の保全、再生に対しサステイナブルツーリズムを超えるものと期待されます(図3)。

図3. 従来観光や持続可能観光と比較した再生可能観光の特徴  
引用:Adopted from Bill Reed’s “Trajectory of Ecological Design.” Diagram | ©John Fullerton

 新型コロナの大災害を経て、人類は1段ステージを上がらなければ意味がありません。保全・維持レベルのマインドを超えて、人と生物と環境と地球全体をシステムとみた大きな生命共同体視野に立ち、日々の暮らし、なりわいのあるローカル共同体視野でアクションする、新たな未来への創造を果たしていきたいものと考えています(図4)。

図4. “リジェネレーション”(Regeneration)、“リジェネラティブトラベル/ツーリズム”(Regenerative Travel/Tourism)で新たな未来へ創造を


ウェルビーイングを手に入れるウェルネスの島沖縄へ

 今般のコロナ禍で、自粛のストレスから解放されたい、健康で充実したライフスタイルを実現させたいニーズが全世界で高まると同時に、これまでと違った生活様式、ニューノーマル時代が到来し、新しい働き方、生き方を求める欲求も全世界規模で高まってきています。よりよく生きる、生き方のヒントを、世界中が求めているときでしょう。ファーストライフからスローライフへ、グローバル志向からコミュニティ志向へ、テクノスキルから生きる力、ライフスキルへ。ビジネスも、グローバルビジネスからコミュニティビジネスへ、一人勝ちの社会から地域全員が幸福になる社会への転換が求められています。

 人生百年時代、百年に一度の大災害といわれる今だからこそ、一世紀を生き抜いた人々の普遍的な知恵に再注目し、そこにはただ長生きではない「よりよく生きる」 ためのヒント、そして、ポストコロナ時代を生き抜いていける働き方、生き方のヒント、そして新たな創造のヒントまで隠されているのではと考えています。従来の視点を変え創造力を駆使して掘り起こさなければ、資源は資源のまま、ただそこに在るのみです。

 環境破壊、開発に揺れる島沖縄、長寿転落の島沖縄に嘆く、ただ危機感を煽るだけではなく、沖縄固有の資源には、輝く人生、豊かな人生に寄り添う“ウェルネス資源”“ウェルビーイング資源”という新しい価値を見出すことが可能です。

おわりに~
アジアウェルネスセンター沖縄、TSUNAGARIの島沖縄

 サービス産業を中心とする偏りある県経済構造​で、災害、風評被害で容易に脅かされる​観光の島から、ウェルビーイングを手にいれるウェルネス資源にあふれる島沖縄という発信が、世界的に成長著しいウェルネス市場を背景に、環境と人に優しく持続可能を目指すインフラ産業、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の壮大な実証地として次代のライフスタイル創造企業を呼び込み、クラスター(集積)を起こし、一次二次三次産業のバランスのとれた経済構造への転換にも資する取り組みとなります。

 成長著しいアジア・ゲートウェイ沖縄は世界に5つしかないブルーゾーンであり、“アジアウェルネスセンター”となれるポテンシャルがあります。沖縄に保養に来た、仕事に来た、ワーケーションに来たあの日あの時の私の健康ウェルネスデータがホスピタリティあるサービスの一環に自然と収集されバックアップ構築されれば、沖縄はビックデータ集積地となり、ウェルネス×テクノロジービジネス、新モノコト産業創出の優れたテストマーケティングフィールドにもなるでしょう(図5)。

 観光のその先へ。何度も訪れるウェルネスサードブレイス沖縄は、やがて人々の人生の一部に組み込まれていく。“次世代ライフスタイル産業”の島沖縄へ、そして“TSUNAGARI(つながり)の島沖縄”、実践教育への応用で“生きた学びの島沖縄”という価値を世界に提供する島となることを期待しています。


<筆者プロフィール>

荒川 雅志(あらかわ まさし) 
琉球大学国際地域創造学部ウェルネス研究分野 教授 医学博士

1972年福島県生まれ。世界5大長寿地域“ブルーゾーン”沖縄100歳長寿者のライフスタイル研究、沖縄の美容と健康素材の研究で福岡大学大学院医学研究科社会医学疫学専攻修了。医学博士。日本から発信する新しいウェルネスの定義、インサイドアウトSDGsなど、ウェルネス研究、ウェルネスツーリズム研究の第一人者、海洋療法学者。
全米ビジネス書ベストセラー『THE BLUE ZONE(ブルーゾーン) 2ND EDITION(セカンドエディション)世界の100 歳人に学ぶ健康と長寿9つのルール』翻訳・監修者。

参考文献

  • ダン・ビュイトナー著, 荒川雅志 (翻訳, 監修)、仙名紀 (翻訳). The Blue Zones 2nd Edition(ブルーゾーン・セカンドエディション), 祥伝社 2022.
  • 令和4年版「沖縄食材図鑑」 一般社団法人食の風、琉球大学ウェルネス研究分野監修
  • 荒川雅志. ウェルネス、ウェルネスツーリズムと沖縄. 南方資源利用技術研究会誌 34(1) 1-6, 2019
  • Arakawa M, et al(2005). Hypertension and Stroke in Centenarians, Okinawa, Japan. Cerebrovasc Dis. 20: pp233-238
  • Arakawa M, et al(2015). Health Tourism in Japan. 3rd Annual Conference Proceedings Asia Pacific Chapter, Travel and Tourism Research Association (TTRA), pp100-101
  • 荒川雅志(2010). 高齢者のライススタイルと睡眠, アンチエイジング医学, 6(2):pp38-41
  • 荒川雅志. 平成21-23年度文部科学研究費若手研究(B)「百歳超高齢者の身体的、体力医学的特性と健康に関する研究」
  • 厚生労働省平成27年都道府県別生命表の概況, 政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室, 2015.
  • 沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課. 令和元年度国内富裕層向けプロモーション事業報告書, 2020.
  • John Fullerton. Regenerative Economies for a Regenerative Civilization. www.capitalinstitute.org, 2015.
  • Leah V. Gibbons. Regenerative—The New Sustainable?, Sustainability. 12, 5483, 2020.
  • Paul Hawken. Regeneration: Ending the Climate Crisis in One Generation. Penguin Books 2021.