ウェルネスコミュニティ論/ウェルネス地方創生

ウェルネスコミュニティ論とは、ウェルネスツーリズムを入り口に、地域資源を活かした滞在型観光から中長期滞在へ、やがて2拠点居住や移住・定住を促し、来訪者と地域市民の共生と産業活性が両立する、輝く人生ウェルネスなまちづくりを目指す地方創生の方法論です。

荒川 雅志 著 NPO日本スパ振興協会 編著
ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~フレグランスジャーナル社(2017)より

ウェルネス地方創生

成長著しい有望産業として、あらゆる分野から参入可能なテーマであるウェルネスは地方創生のテーマとしてもふさわしいものです。

ウェルネス地方創生とは、ウェルネスツーリズムを入り口に、訪れる先の観光資源を新しく「ウェルネス資源」として再発見、再構成をおこない、地域資源に新しい価値を生み出すことができます。

今、観光の分野では「国の光を観る」という観光の語源から、さらに一歩踏み込んで『国の光を見直す』という視点で、地域固有の資源を再発掘し再構成を図るニューツーリズムの開発視点への転換が求められています。参加型、体感型、交流型の観光にウェルネスというキーワードを加え、旅を健康ライフスタイルの「日常の延長」として位置づけることで、また必ず訪れるべき地となり、やがては終の住処としたい移住者たちも増えていくことでしょう。

受け入れる地域側は、健やかな心身養生、農・土に触れる暮らしと自然環境との調和、地域行事、伝統文化の継承に携わる機会をつくり、地域の素朴な暮らし、ホンモノの暮らしに触れる体験から、気づき、発見、自己実現のディスティネーション(目的地)となるためのインフラ整備を進めることで、地域市民の憩いの場や健康医療福祉基盤の充実にもなり、ここに来訪者と地域市民の共生と産業活性が両立するまちづくりが見えてきます。

日本ではニューツーリズムとして再登場を果たしたヘルスツーリズム(ヘルスは狭義のため、健康を基盤に生きがい、輝く人生までを対象とするウェルネスツーリズムに取り組む自治体が増加)を観光と健康づくりを一体化した新しい観光活動・事業としてとらえ、その推進により、以下の効果が期待できます。

  • 宿泊観光参加回数と宿泊数の増加
  • 新たなビジネスモデルや事業の誘発
  • 健康的な地域づくりの促進
  • 地域のイメージアップ・知名度のアップ
  • 観光消費行動の増加による地域経済の向上
  • 地域内での新たな観光産業の創出
  • 地場産業の振興
  • 施設・インフラ整備の誘発
  • その他の経済効果 (税収、雇用創出など)

*日本観光協会(2007)「ヘルスツーリズムの推進に向けて」より筆者一部改編

アライアンスの必要性とウェルネス人材に求められる資質

地域資源を活かしたウェルネスツーリズムを構築し、成功に導くためには、ウェルネス関連分野の人材とツーリズム(観光)を専門とする人材の連携、「アライアンス(Alliance)」が不可欠です。
アライアンスとは、複数の業種が互いの成果に向けて緩やかな協力体制を構築することです。

アライアンスにより、これまでの業界の常識や慣行にとらわれず、広い視野から俯瞰してみる機会ができ、そこには自由な発想が生まれやすくなります。人、人材もまた重要なウェルネス資源なのです。
次世代ツーリズムと次世代ヘルスケアの融合ともいえるウェルネスツーリズムには、市場の有望性から異業種の参入が相次いでいますが、単体での成功は容易ではなく、それぞれの強みを提供し弱みを補完する多業種、多職種、そして異業種アライアンスが成功へのポイントとなってきます。

ヘルスツーリズム、ウェルネスツーリズムの構成には、医(西洋医・東洋医、カウンセラー、相補代替療法専門家など)、休養癒し(スパセラピスト、エステティシャンなど)、栄養(管理栄養士、料理人など)、運動(健康運動指導士、トレーナーなど)の健康医療分野と、宿泊・旅行・運輸を代表とする観光分野との連携は不可欠です。観光とIT、IoT、DXの融合も不可欠となり、精通する人材の関与も求められてきています。

そこには「ウェルネスコンシェルジュ」といった、顧客にシームレスにサービスを提供できる人材、ニーズに対応した新たな雇用創出の可能性までがみえてきます。それぞれの得意分野を活かし、ゲストの健康QOLをトータルにケアする時代が目の前に来ているのです。

図2.ゲストに異業種トータルでケアする図
図2.ゲストのQOLを異業種連携でトータルケアする時代

荒川 雅志 著 NPO日本スパ振興協会 編著
ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~フレグランスジャーナル社(2017)より


ウェルネスツーリズムへの取り組みは自然とアライアンスを促し、従来では交わらなかった異分野の人材、異職種、多業種が交わることで新しいアイデアや発見が起こり、サービスイノベーションが起きる可能性が期待されます。

日本の発展に向けて、高次元のニーズに対応するサービスの質的向上が重要であり、安全、安心欲求、健康、長寿など基盤的欲求に加えて、社会的承認や、自己実現といった高次欲求に対応できる、人々の輝く人生・ウェルネスに寄り添える高度人材の養成が求められます。

ウェルネス人材に求められる資質とは

  • 世界的市場動向、社会的ニーズの収集・分析力
  • 各国国家戦略動向のウォッチ
  • 顧客の変化、多様化に対応する能力
  • 多業種、多職種、異業種との連携力、コミュニケ―ション力
    →サービスコミュニケーション、サービスイノベーション
  • 健康科学知見のアップデート、健康リテラシー力の獲得
  • 経営学理論の取り入れ
図3.アライアンスの図
図3.ウェルネス人材アライアンス

荒川 雅志 著 NPO日本スパ振興協会 編著
ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~フレグランスジャーナル社(2017)より

大学連携型CCRC
~ウェルネスCCRC~

人口減少問題の克服、成長力の確保を目指す地方創生施策として、地方への新しいひとの流れをつくる施策のひとつとして我が国は日本版CCRC(CCRC:Continuing Care Retirement Community)を推進しています。

健康時から介護時まで継続的ケアを提供するアメリカ発祥の高齢者施設コンセプトそのままでは、高齢者の地方移住政策という狭義にとらえられ批判があることから、高齢者に限らず多世代の交流・定住・移住政策の次世代のまちづくり「生涯活躍のまちづくり」と名称を変えています。

日本が直面する喫緊の課題解決を目指すための動きに、我々も大学の持つリソースから連携を果たしたいと考えています。
中でも学生たちは貴重な資源です。若い力、柔軟な発想をもって“若者も活躍する観光まちづくり”の視点で、地域おこし・地域づくりの中心に大学のソフト(公開授業、公開講座)を配置した「ウェルネスコミュニティカレッジ」とその展開をいくつかの自治体をモデルに検討しています。

企業の取り組みにこそ、地域にこそ、最新の情報と社会的課題解決のヒントがあり、学生にとって机上では到底得ることのできない体験、最良の学びとなることでしょう。
コミュニティカレッジとして地域市民や広く社会人も受講していただくことにより、多様な視点の醸成と意外なアイデアによる共有価値の創造が図れるでしょう。

大学連携型CCRC

就業の場(雇用)

  • 高齢者ケア
  • ライフスタイルサービス
  • 施設管理運営

スキル形成の場

  • 大学授業・ゼミのフィールドワーク場
  • 有償インターンシップ・OJT研修場
  • 専修学校の誘致
図4.ウェルネスコミュニティカレッジ

地方創生待ったなしの自治体にとって、多様なプレーヤーの参入を促進し、交流人口を生み出すウェルネスツーリズムを入り口とした生涯活躍のまちづくり、「ウェルネス地方創生」がやがて全国各地で広がりを見せることを期待しています。

荒川 雅志 著
NPO日本スパ振興協会 編著
ウェルネスツーリズム~サードプレイスへの旅~フレグランスジャーナル社(2017)より抜粋

荒川 雅志 Masashi ARAKAWA
国立大学法人琉球大学
国際地域創造学部ウェルネス研究分野 教授 医学博士